この小さな家は、私達が設計した家のなかでいちばん、小さいのですが、素敵な暮らしです。家が完成して、数年後、窓から見える桜が見事なのでと、、、お家に招いてくださった、訪ねたその日が懐かしく思い出されます。堀さんご夫婦は、東京の暮らしから、この美しい山里と畑が好きで、祖父の代の土地にもどろうと話し合い、水源の山 栗園、田 と広い畑、ここに移り住むための暮らしのイメージを抱いておられたのです。

山里で、設計活動をする私達を訪ねてくださり、スケジュールプランに合わせ早速、敷地を拝見し、計画はスタートしました。3つ小さな家のプランを提案すると、にっこり笑って「これ!」と選んだのはいちばん小さな家のプラン。小ささをいつくしみ、簡素さへのきっぱりとした考え方を、もっていらしたのです。これは建設へ向けたほんとうのローコストな姿勢だと思いました。多くの工務店さんは、希望する計画の工事に合わせ、適正な自社積算をし、見積書を作成します。それを安くすることがローコストではありません。簡素な暮らしの計画は、設計を含め、考えをダイエットすることが大切です。あれもこれもと、多くを求める計画は失敗します。小さな豊かさは自然があること、自分たちらしい簡素な暮らしを考えることだと思います。当時の建設コスト、800万で実現したお家です。岐阜県明智町 木造二階建て 延床46.30㎡
山里のちいさな小さなお家のプラン
静かな里山の中にある小さな家は、農的暮らしのための最小限の住まい。 必要なものだけを満たした十六畳の広さ。広い畑と果樹林、清水の流れる、守られてきた里のやさしい山につつまれている。桜の大木、梅と竹林、そして祖父の住んだ家と古い蔵。美味しい沢水が引ける。「これだけの緑に囲まれているのだから、これほどの贅沢はありません」。ご夫婦二人、「余分なものは、一切いりませんから」と最小限の住まい。
水回りは、柿の木の下を真っ直ぐに進むと三畳の軒下がある。ここから裏山の竹林へと見通すことが出来る。正面から向かって左の棟は、浴室、洗面、トイレの四畳の一室空間。農的暮らしでは、外からすぐに出入りし使える位置に水回りがあると、とても便利だ。竹林に囲まれて、裏庭の光を見ながら一日の疲れを癒してくれるお風呂、そしてすぐ近くには、洗濯機置き場がある。お湯は、豊富な薪材を利用し薪給湯器を使う。山の湧き水をここまで引いて、貯水タンクに貯め、水圧をかけるため十メートルの高さから流水している。水と風呂の給湯は、自給している。全てのエネルギーを自給しているわけではない。台所の愛用のハイカロリーコンロは、プロパンを利用している。自給自足に近い暮らしをゆっくりと無理をせず、近づける。三畳の軒下を挟んで八畳の棟は、台所と食事とくつろぎの場、野良仕事のいっぷくの場である薪ストーブのある玄関、これらが八畳の中に納まっている。これに加えて四畳の屋根裏部屋の寝室がある。
軒下から薪ストーブのある玄関へ 軒下は、雨を避け、暑い夏の日差しを遮り、冬の日だまりを楽しむ場所。アプローチを進むと南北に開放された竹林の風景が風にゆれて見える。ここは、将来の改築の有効スペースである。
玄関からダイニングテーブルへ 控えながらも堀さんは、幾つかの希望を持っていた。そのひとつが大きな窓をつくること、そして、そこに今まで使ってきた愛着あるテーブルをとベンチを置くことだった。実現した窓は、大きく堀さんの山に向かって景観が広がる。敷地をはじめて訪ねた時、「あの方向に向かって」と手を伸ばし、「あの山を見て、ここで暮らしたいのです。」とおっしゃった。この窓からは、見事なサクラの大木が見える。工事中、この窓が出来上がったとき「窓から見える景色が素晴らしいので、いつまでも見ていたくて、離れがたくて、じっとここに、いたんですよ」と、喜んで下さった。 このテーブルで、「ベンチにゴロンと横になりたいんです」と笑って、おっしゃるので、背の高い堀さんサイズの造り付けのベンチができる。このベンチに座って、大きな窓からの眺め、そして振り向くと薪ストーブの炎が見える。里山の四季を楽しむ居場所、ほっとしたひとときを過ごす。祖父の代の住まいにあったガラスの傘の照明と自分たちが持っていたものがテーブルを灯す。テーブルから照明の高さは、とても大事、窓の下には、心地よい風が流れる回転窓が仕掛けられている。
つながり 薪ストーブのある玄関、テーブルそして、大きな窓に風が流れる。そのつながりとともに、8畳で過ごすには、背の高さや動きのサイズを決め、スムースにゆったりとしたボリューム感がいる。立つ、腰掛ける、寝ころぶ、そして、すぐ手が届くところに配置計画された台所がある。それぞれの窓の位置とのびやかな展開とコンパクトな階段まわりに吹き抜け空間がある。
台所は、ヒノキでつくられた簡素な調理台にホワイトのシンクが、そして「気に入った物は、大切に」と今まで使ってきたハイカロリーガスコンロがある。調理具は、よくよく考えて棚にしまう。今の暮らしに、本当の必要なものだけに限るとすっきりとしただいどころが出来る。実現した台所に立ち「もう充分です。」といつも、にこにこしてきっぱりと答えてくださる。台所の背には、60cm角の木の窓がある。「内壁は漆喰壁で、できますよ」とお伝え出来たとき、本当に喜んで下さった。漆喰壁の白に里山ののどかな風景がくっきりと見える。どうしても叶えたいものがある。どんなにシンプルな暮らしでも、そばに置いておきたいもの、大切なものや想いがある。それをこれからの暮らしに欠かせないものとして、あらためて気づき大切に包み込む家だからこそ小さな家。堀さんらしい家になる。
屋根裏部屋 ベンチで一段、そこからとんとんと上ると屋根裏部屋の寝室四畳、ここには、造り付けの棚机がある。低く腰掛けて手紙を書くことの出来るスペースがある。トップライトからの光が降りそそぐ、そしてここから月見台風のバルコニーにでるとパーッと景色が広がる。「余分なものは、一切いりませんから」とスタートし、本当に必要なものと必要でないものをいっしょに考えたのです。
職人さんがいて 一軒の家が完成するまでには、それを形にする職人さん達の努力、仕事がある。細やかな手仕事を残してくれた大工工事の棟梁をはじめとする大工さんたち、さっぱりと快く、確実な仕事の基礎屋さん、難しい仕事をこなしてくれた建具屋さん、きめ細かい注文に応じてくれた、いつも楽しい電気屋さん、こうした職人さんたちとの交流あり、家が完成したのだという実感をしみじみと感じられた堀さんご夫婦。
これから 栗園の手入れ、田畑、山、小川への遊歩道を整える計画、そして古くなった家屋を利用しての野良仕事のための囲炉裏場をつくる計画、ここには、残されたままの古い農具がある。薪ストーブの薪割りにと鍛冶屋さんへ持っていって再生したマサカリは、ここにあったものだ。この日、小さな畑にイチゴの花が咲いていた。チューリップが色鮮やかに風にゆれていた。
引っ越しされてから数日後、メールが届いた。「生活してみての感想は、予想以上に最高!です。」「人生で最高の熟睡後、鳥の声で目覚めます。」「水は、順調でおいしいです。薪ボイラーは、すぐれもの、一日一回焚けばO,Kです。」「「お風呂は、山の水と薪焚きのぬくもり、一日の疲れが消えていきます。広いおふろ場と窓から見える竹林、木の香り、ゆとりを味わえます」「キッチンの使いよさは、格別です。高さ、収納とも必要十分、料理は、すぐにテーブルに運べ、食べ終わるとベンチにごろん、星空が見えます。」
私たちは うれしいメールにほっとする。私たちの仕事には喜びが三つある。①完成した家での暮らしを想い浮かべること、②敷地を訪ね、スケッチを重ね、インスピレーションが湧く一瞬、③そして多くの職人さんの手で現実に形をなしてゆくこと。
簡素な暮らしと、小さな家の豊かさがある。住むために必要とされる美しい場所に出会えたのなら、それだけで無駄と考えられるものが見えてくるに違いない。
新しい暮らしはスタートしました。その住まいを訪ねた日。movieでご覧ください新しい農的な暮らしをささえる 簡潔な里山動線があり、心に無垢な、里山時間が流れていることをあらためて感じます。
出会えたエピソード 私が移住希望のご家族に向けて「山里の暮らし、移り住む」をテーマにミニ講演でお話した機会がありました、それを堀さんご夫婦が聴いてくださったそうです、暮らしへの想いを胸にドキドキ、、、 私たちを訪ねてくださったのです。
特集掲載 住まいネット+岐阜 VOL.19 特集掲載 季刊誌「住む。」 季刊春 NO.21 から抜粋
小さな小さな家を訪ねました。 桜が満開の頃、岐阜県明智町の里山に住む堀さんから 久しぶりのお便り、家の大きな窓から見える桜がきれいです、 タケノコの季節ですよ、とお誘いを受けました。 堀さんご夫婦と出会い、敷地をはじめて訪ねたあの頃、 桜と向こうの山を望める窓があったらと、まだ何もない敷地で たたずんで話し合ったのは、6年前のことでしょうか、工事が進みこの場所に家が姿をあらわして、そして希望だった窓が出来たとき、どんなに喜んでくださったことか、堀さんご夫婦がこの窓の風景とともに、新しい暮らしをはじめることを思うと、私たちもとてもうれしかったのです。ずっと昔からこの地に住む大きな桜、春になったらこの大きな窓に映る風景はどんなにきれいしょうね、見てみたいナ、と言ったひとことを堀さんは、ずっと覚えていてくださったのだと思います。家が完成し、来る春の幾度かの便りで桜の様子を伝えてくださったのですが私達がその季節に忙しくして今まで機会を逃していたのです。今年の春は、なんとしてもと思い、久しぶりに訪ねることができました。
堀さんご夫婦のにこやかな笑顔、再会の喜び、大きな桜の大木は花を散らさずに待っていてくれました。寒さで霜が下りた日もあって、少し色があせてもいたのですがそれでも見事な桜でした。静かな里にこうして何年も春を迎え桜はただじっと静かに咲き続けてきたのかと思うと、かつてご祖父の暮らしたこの地に新しく堀さんご夫婦が住もうと決心した時、きっとこの桜もまわりの風景もふたりをやさしく迎えてくれたのだろうとの思えるのです。今では近くの隣人のおばぁちゃんもやって来て堀さんの窓辺をゆっくり楽しみ、お茶を楽しまれるそうです。こんなにいっぱい自然があるのだから、小さな家でかまいませんとおっしゃった。その後の様子は、山から水を引き、畑を開墾し土を育て野菜の収穫、風呂を薪で焚く(薪給湯機),東京から友人が大勢泊まりにやって来て、デッキにテントを張って過ごした様子など、私達もまた里に住み互いにそうそうと出来事のあれこれで話が弾みます、アカショウビンがやってきたことで野鳥の本を開いては、いつまでも話はつきません。計画の頃、小さい家の三案の中からいちばん小さな家をにこにこして祐子さんが選んだことが今でも忘れられません。今も「私たちはこの家でじゅうぶん、今まで不自由を感じたことありません、快適に過ごしていますよ」と感謝の言葉も頂いて、家の広さってなんだろうと考えさせられました。堀さんご夫婦のさっぱりとした暮らしぶり、ほんとうに大切なものを求める暮らしが素晴らしいのだと思えるのです。コーヒーが大好きな晃さんが台所に立つと手つきはまるで喫茶店のマスターです。おいしい香りが8畳ほどのダイニング・リビング・キッチンで一室の部屋にひろがります。
計画で考え話し合ったことは、家はじまり、ここでの暮らしを実現するために最小限でよいと決めました。自ら作れるものは自分たちの手でつくる。
住み始めてあれこれ必要と思われるものをゆっくりと自身の手でつくり実現する。それがまわりに展開できるような可能性を含めた計画でもありました。それを堀さんたちがどのようなアイデアでプランを広げてゆくのか、私たちもその後をわくわくした気持ちで訪ねたのです。玄関までの手作りのアプローチでは、自然に増えたムスカリの花たちが迎えてくれました。薪作りの作業場は、山仕事をする晃さんらしく効率よいアイデアで組んでありました。下足箱兼ベンチ、薪入れなど見ていると手作りの楽しさが伝わってきます。デッキの手すりにはバラが窓辺の前にはカツラの苗木が一本植えられていました。堀さんご夫婦が住むこの小さな家の広がりは私達の想像を超えたものでした。設計した家がこんなにも大切にされいる、私たちにとっても至福に包まれたひとときでした。
季刊誌「住む。」no,21 2007 spring 号 その頃の堀さんご夫婦の様子は、 「小さな小さな家」で特別企画掲載されています。
※ いつか、家やお店、小屋をつくってみたい、ご自身で計画してみたい方のために、基本知識を学びながら、「建築の絵本」づくりができるワークショップを開いています。 詳しくはテキストからリンクしています
絵本の紹介です 「ちいさいおうち」ばーじにあ・りー・ばーとん ぶんとえ いしいももこ やく 岩波書店
私(SIMA YOSINOBU)がはじめて手にしたのは、小学生の頃、名作バージニア・リーバートン作 絵本「小さな家」岩波書店 をご存知でしょうか、小さいけれどリンゴの木に囲まれた丘に、愛され続けて建っている、小さな家は思うのです。お日様、星、月がいつもそばにいる、ヒナギクが見える。リンゴの木がゆれているやっぱり田舎はいいナと、、、、、

最後のページには、こう綴られています。「ちいさいおうちは もう二どと まちへ いきたいとは おもわないでしょう、、、 ちいさいおうちの うえでは ほしが またたき 、、、お月さまも でました・・・はるです・・・いなかでは、なにもかもが たいへん しずかでした。」



















