私たちの「大きな森の小さなギャラリー」を東京から訪ねてくださったのは数年前のことです。暮らしに望んだことは、趣味である山歩きができる環境で、遊びにやってくる兄弟・姉・甥っ子と心地よく過ごせる場をつくり、草花や木々を育て、小さな森をつくることでした。しばらくして「いくつかの候補の土地を見てください」と連絡をもらい原村へ。こちらからのアドバイスをふまえ、少し急斜面ではあるけれど、遠くの山並みが望める敷地に決められました。暮らしのイメージを話し合い、そのかたちをスケッチにまとめ、絵本(作: 島いずみ)にしてお渡ししました。それをもとに原村に移住を決意されたのです。小さな家の計画は、サンルームの玄関で苗を育て、雪解けを待ちつつ、あたたかな居場所をつくること。夏は、そよぐ風が通り抜ける窓に、美しい風景を映す木製の窓をつくることでした。玄関からのステップを上ると、北にアルプスの山並みが広がります。暖かい薪ストーブのある居間へ進むと、長いくつろぎのベンチがあり、薪ストーブを中心に、ゆるく気配を繋げる居間と台所があります。小さな家は桁を低くおさえた家形の登り梁の、ひと繋がりの空間です。薪ストーブのあたたかさとともに半階(1.3m)ずつ上がると、それぞれの場所から、南北の山並みの変化と、こずえを身近に楽しめる計画となっています。居間から中2階へ、さらに半階上がり寝室へ。はしごで上がる小さな屋根裏部屋から南に八ヶ岳を北に白馬岳を望むことができます。この斜面地に建つ小さな家の魅力は、自然に沿う斜面の小道と、薪ストーブのあたたかさにそう内のステップが、山並みへの視線の変化を楽しめながら、テラスでまじわり、一順することです。そして山での暮らしの道具は、小ささの中に随所に工夫して収められています。原村に住む小さな家で構想したのは、大工棟梁、職人たちの手仕事が織りなす簡素な家です。すずやかな初夏の朝日にも、冬の夕日があたたかさにも、ゆっくり染まる山並みを映す一面の木製ガラス窓、漆喰壁と、染め布が、その光の美しさをつくり出します。それらがひとときを包み、暮らしのつむいでゆくのです。