「建築の絵本」私たちの家エピソード

 構想する人の家

  1. はじめは、小さな小屋をつくり、週末滞在で考えたこと

37年も前のこと、都心の中心街 名古屋市今池の近く、賃貸マンションの住居兼仕事場で設計事務所を開設した頃、第一子が誕生、いつか、、、自分の家を持ちたいとぼんやりと、考えはじめたのです。私達夫婦は共に建築士です。世の中はバブル期、まわりは建設ブーム、マンションが次々に建ち、騒がしい街中で、落ち着かない雰囲気の漂う時代、なんか変だなと思いつつ、私たちには 家を建てる資金もなく、建てられる土地さえ手に届かない地価高騰の時期でした。子ども中心の子育てに、日々追われる生活のなか、私達は、のどかな田舎育ちだったので、子ども時分の当時の風景と、今の子どもらの環境の重ね、自然の中で育てたいと、いろいろと迷い、戸惑う日々でした。近くの公園で遊ばせながら、、、砂場、ブランコ、すべり台、鉄棒があるフェンスに囲われた中に、木陰のベンチ、どこにでもある公園の風景です。公園前の道路を車がスピード上げて走る。フェンスに囲まれ、安全には遊ばせられるけれど、どこか幼い子どもを見守りつつ、緊張していたように思います。楽しいお友達がいる。公園は子どもにとっては楽しい場所、毎日、毎日、そんな繰り返しの生活です、夫婦そろっての子育てでしたから、日中は、マンションに住み、設計のデスクワーク、近くの公園を交代で行ったり来たりの日課でした。住まいに戻り、子どもに絵本の読み聞かせをし、ぐっすり眠っている間が夫婦が共に図面に向かえる時間でした。

こうしたなかで考えたことは、建設資金がなく、土地もないけれど、いつか自分たちの家が欲しいなら、今 できることとは、想いを描くことだということでした。私は、小さい頃から絵を描くことが好きでしたし、心に想い浮かぶ心象風景をそのまま描けます。ここからが、私の家を考える「建築の絵本」のはじまりでした。子どもに絵本の読み聞かせをし、満足そうに眠る、子どもの無垢な寝顔を見ることは、忙しい日常の中の至福のひとときです。子どもがスヤスヤと寝ている間に、私は、鉛筆を走らせ、自分の絵本を描きはじめました。

ひらめきは、小さな、小さな小屋をつくるというものでした。子どもがもう少し、大きくなったら、週末をキャンプできるような、、、長い夏休みや週末に、家族で過ごせる簡素な滞在小屋の憧れがありました。そのヒントは、子どもになん度も読み聞かせをした絵本の一冊にあります、ハラハラドキドキする素敵な絵本です。

「ふぶきにあった日」トルヴァール・スンド作ヴェンケ・オイエン絵山内清子訳福武書店 そしてもう一冊の 名作

「ちいさいおうち」ばーじにあ・りー・ばーとん ぶんとえ いしいももこ やく 岩波書店 

その最後のページには、こう綴られています。「ちいさいおうちは もう二どと まちへ いきたいとは  おもわないでしょう、、、 ちいさいおうちの うえでは  ほしが またたき 、、、お月さまも でました・・・はるです・・・いなかでは、なにもかもが たいへん しずかでした。」

小さな小屋づくりをしようとスケッチを日々重ねました。小さな小屋で考えれば、建設費はかからない、自力建設すれば、できるかもしれない。実現できると思えることは、心に希望をふくらませてくれます。まず絵にし、考えに考えること、将来の暮らしにつながるイメージをつかむこと、簡素だけれど、美しい小屋を作りたいという願いで描いたのがこれらのスケッチです。

その中の一枚は、高床の小屋です、ピロティがあり、テラスがある。そこに一本の果樹を植える。 星を眺め、お月様をを眺め、風と、野鳥のさえずりに耳澄ます、都心の忙しさ、騒がしさを忘れ、季節の移ろいを身近に感じる場所へ。キャンプ道具を持ってさあ、でかようと、、、小屋ひとつあれば守られる、ここから、はじめればよいのだと。 

さて、何処に行けばよいだろう、この小屋にふさわしい場所は何処にあるのだろう。それから土地探しが始まりました。(続きは、エピソード2「住む土地を探す」です)

さて、私の「建築の絵本」小屋づくりは、こう考えたのです。半畳の小屋があれば、そこに小さな窓とドア、机と椅子が置ける。本棚を作ればランプの光を灯すことができる。小窓に美しい風景があれば、遠くを眺め楽しめる、お茶を飲むことができる。バードウォッチャーなら観察小屋とするだろう。一畳ならば、午睡できる、枕棚には一冊の本を持って出かけよう。2畳あれば机と、寝台と椅子が置ける。3畳あれば、友人と話ができる広さになる、ここに欲しい広さのウッドテラスをつくれば、ハンモックか、ブランコを吊そう。4畳半あれば茶室の広さ、、、この広さで高床の小屋にすれば、ウッドテラスのピロティができる。ここにコンパクトなミニキッチンをしつらえるよう、、、このように考えれば、6畳とは、どんなに広いスペースかがよくわかる。水は、どこの沢水を引こうか、トイレ・シャワー・バスは、後で付け加えればよいと、、、実現可能なことから、始めればよいのだ考えたのです。夜空の星のもと、静かに焚き火を眺めて過ごす、寝袋ひとつあれば、小屋が守ってくれる。静かな自然の中で、時間を過ごすことだと考えたのです。山里に小屋を建てよう。自然の中に溶け込むような、美しい簡素な小屋をと。

これは「建築の絵本」で私が考えたストーリーです。この考えとスケッチは、のちに季刊誌「住む。」の編集者の目にとまり、タイトル「緑の中に小さな小屋をつくろう」の企画で掲載されました。

季刊誌 住む。 AUTUMN2006 #18 特別企画 週末小屋のすすめ 「緑の中に 小さな小屋をつくろう」

「この広さの簡潔な考えは、今 家づくりを考える方の手掛かりになりますね」世相はバブル期の熱から覚めて、簡素な暮らしへと思考が変わりつつ、「田舎暮らし」という、言葉が聞かれるようになりました。思えば私達は、その先駆けとなっています。移住する家族がしだいにふえ始め、山村地域の中で今、私達はその相談を受け、アドバイスする立場にいます。

のちに、私達は住む土地に出会えたのですが、家が実現したのは30年前のことです、その家の原風景は、当時描いた高床の小屋の一枚のスケッチがもとになっています。

 ※ いつか、家やお店、小屋をつくってみたい、ご自身で計画してみたい方のために、基本知識を学びながら、「建築の絵本」づくりができるワークショップを開いています。詳しくはテキストからリンクしています。

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